竹中工務店×日本ERI – BIM図面審査 第一号交付の舞台裏

竹中工務店×日本ERI – BIM図面審査 第一号交付の舞台裏

建築確認の新たな制度としてBIM図面審査がスタートして一週間後の4月7日に第1号案件の確認済証が交付された。申請した竹中工務店と審査した日本ERIの担当からは「最初から狙っていた訳ではなく、うまくタイミングがあった」との声が聞こえてくる。先陣を切った両者は、どのような意識で取り組んできたか。BIM図面審査を活用した申請の動きが徐々に広がりを見せる中で、注目された第1号交付の舞台裏に迫った。 他の導入事例を見る 連載(1) 竹中工務店×日本ERI 両者の思いが導いたタイミング BIM図面審査の第1号交付を受けたのは、明治安田生命が静岡県掛川市内に計画している事務所ビル「掛川営業部事務所」となった。規模はS造2階建て延べ約1000㎡。設計と施工を担う竹中工務店名古屋支店が、日本ERI名古屋支店に建築確認図面一式を電子申請システムから提出したのは2026年2月16日のことだ。竹中工務店名古屋支店の吉岡亜希子設計部設計第2部門設計3グループ主任は「提出する半年ほど前から相談はしていたが、その頃からBIM図面審査を意識していたわけではなく、あくまでも着工時期に合わせるための事前相談だった」と振り返る。 BIM図面審査は、建築行政情報センター(ICBA)が運営する確認申請用CDE(共通データ環境)「ArchSync」の中で、BIMデータから描き出されたPDF図面を審査し、提出されたIFCデータを活用しながら指摘事項の確認や修正などを行うが、竹中工務店が確認書類一式を提出した2月はまだ確認申請用CDEの運用前だった。ArchSyncが開設されるのを待ってBIM図面審査の要件に沿ってPDF図面、IFCデータ、入出力基準適合誓約書の3点セットをアップロードする形で3月27日に再提出した。 竹中工務店では、BIM図面審査への対応を見据え、25年10月に社内の設計モデル・データ作成ガイドラインを改訂し、翌11月には全国の設計グループ長約70人に向けた説明会を実施するなど、BIM図面審査への準備を念入りに進めてきた。名古屋支店の今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「既に一定規模以上はすべてBIMで設計している。BIM図面審査を活用するか否かよりも、当初からBIMデータから出力した図面で提出することは決めていた。うまくタイミングがあった」と考えている。 実は、電子申請した2月の時点はArchSyncの運用前だったこともあり、BIMデータ検証ソフト「Solibri」のデータも提出していた。大阪本店の荒川暁郎設計部申請グループチーフコンサルタントは「事前にSolibriを使ってIFCデータによる形状確認をしてもらうことができた。日本ERI側に対応できる担当者がいたことが、第一号交付に結びつく要因の1つだった」と明かす。 ArchSyncに3点セットを再提出した5日後の3月31日に日本ERIによる事前審査が終了し、BIM図面審査制度がスタートした4月1日のタイミングで本受付として受理され、消防同意を経て4月7日に確認済証が交付された。竹中工務店の野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエキスパート申請総括は「国が制度開始に向けて25年11月に審査マニュアルなどの事前公表版を公開したことで、われわれ申請者側が前もって円滑な準備ができたことも、第1号交付を受ける後押しとなった」と強調する。 連載(2) 竹中工務店×日本ERI これまでのBIM審査経験が後押しに 「BIM図面審査の第1号交付は名誉なことであり、国の取り組みに対して先陣を切って対応できたことは担当者の励みになる。これまでBIMへの対応に力を注いできたこともあり、支店としても今後に向けた自信にもなる」。日本ERI名古屋支店の河端快行支店長は、そう手応えを口にする。 全国33拠点で確認審査業務を展開する日本ERIでは、社を挙げてBIM図面審査への対応準備を進めてきた。今野渉確認企画部長は「10年以上前から電子申請への対応に切り替え、画面上で審査する環境には既に社として慣れている。確認申請用CDEを使った審査への抵抗感が制度スタート時からなかったことも、第一号交付に結びつく後押しになったのではないか」と考えている。 4月7日付で名古屋支店が第1号となる確認済証を交付した翌8日にも、新たな済証を交付した日本ERIでは現時点でBIM図面審査による確認済証を6件交付している。確認申請用CDEサービス「ArchSync」上に立ち上げたプロジェクトは交付済みも含め20件を超える。「当初はもう少し控えめな数字になるのではないかと予想していたが、順調な立ち上がりを見せている」と強調する。 2月に建築行政情報センター(ICBA)が開いたオンラインのArchSync審査機関向けトレーニングには、アーカイブ動画での対応も含め、全国の審査担当約600人のすべてが受講済み。万全の体制で制度開始に備えてきただけに、第1号交付は社内でも大きなインパクトとなった。 名古屋支店の原充広確認部次長は、竹中工務店の申請がBIMソフト「Archicad」を使って設計していることを聞いていたことから「実は事前相談が始まった時点で、ちょうどBIM図面審査のスタートと一致するのではないか」との感触を得ていた。「最初から狙っていたわけではないが、タイミングがあった」と思いを明かす。 制度がスタートして一週間後の4月7日に済証を交付できた要因の一つは、BIM図面審査の受け皿となるArchSyncのリリース前から、BIMデータ検証ソフト「Solibri」を使って「図面類の事前チェックを進めることができた」点が大きかった。同社はBIM導入に舵を切る大手・準大手クラスのゼネコンや組織設計事務所からBIMを活用した申請相談に以前から対応してきた。本社が軸になり、Solibriを使った事前チェックも実績を積んできた。名古屋支店も3年前から支店内で対応できる体制を確保していたことが、第一号案件への後押しになった。 これまでBIMを使った審査の試行事例は1000件規模にも達しており、全国の各支店はそれぞれで地道にBIM対応のノウハウを蓄積してきた。名古屋支店の栗田和幸確認部部長も、鹿児島支店で審査担当をしていた2018年に初めてBIMにかかわり、2次元図面を3次元化した審査を経験しただけに「私自身はひそかに第一号交付を狙っていた。支店内にBIMの審査を経験した人材がそろっていたことも、先陣を切って力強い一歩を踏み出せた要因の1つだと思う」と語る。 連載(3) 竹中工務店×日本ERI 身構える必要なく誓約書にも対応 BIM図面審査の第一号交付に携わった関係者はそれぞれの思いを抱いて取り組んでいた。一定規模以上のプロジェクトすべてにBIMを導入している竹中工務店では以前からBIMから申請図面を出力して提出をしていた。今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「入出力基準適合誓約書というドキュメント一枚だけが追加されただけで、そのほかはこれまで取り組んできた流れと何ら変わらない」という思いを抱いた。 誓約書は、入出力基準に従ってBIMデータからPDF図面やIFCデータを出力したことを設計者自身が申告するものとなり、BIM図面審査の運用に当たって新たに加わった書類になるが「それほど身構える必要もなく、対応することができた」と付け加える。 吉岡亜希子設計部設計第2部門設計3グループ主任も「BIMモデルを作り込む部分に力を注いでいるため、モデルが完成してしまえば、副産物としての図面を円滑に切り出すことができる。あえてBIM図面審査のために新たに対応したということはなかった」と強調する。 申請を担う部門では、別の観点からBIM図面審査を捉えている。尾関昭之介設計部技術・品質グループシニアチーフエキスパートは「BIM図面審査における申請者のメリットとは何かをいまだ見いだせずにいる」と本音を語る。以前は申請図書を揃えて確認検査機関や構造計算適合性判定機関まで運ぶ手間があっただけに「今回のBIM図面審査よりも電子申請が始まった時の方がわれわれ申請者にとっては大きなメリットを享受できた」と明かす。 しかもBIM図面審査では確認申請用CDE(共通データ環境)「ArchSync」にデータをアップロードする手順を覚える必要もあり、新しいことに取り組むための負担が生じるという思いもある。「今後、構造計算適合判定や消防同意も含めCDE上で、ワンストップで審査してもらえる流れが成立すればメリットの1つになるだろう」と考えている。 第一号交付案件では、構造適判と消防同意は従来のままとなり、確認申請部分のみがArchSyncの対応になった。実は、竹中工務店名古屋支店では現在、新たに2つのプロジェクトでBIM図面審査による確認申請を日本ERI名古屋支店に提出している。このうち1件は構造適判と消防同意をCDE上で行い、残り1件は省エネ適判をCDE上で実施中。日本ERI名古屋支店の原充広確認部次長は「消防、構造、省エネの3つをワンパッケージにした取り組みはまだないが、それらをまとめてCDE上で共通のデータを審査することがBIM図面審査の目的の1つであり、それが申請者、審査者双方のメリットになってくる」と強調する。 確認部審査課では毎物件ワンパッケージで取り組みたいという思いを持っているが、構造適判や消防同意の申請先がまだ準備ができていなかった事情もあり断念した。「いずれワンパッケージの案件が出てくる」と先を見据えている。 日本ERIは、4月7日にBIM図面審査による第一号交付を完了した3日後にホームページを通じて情報発信をした。それをきっかけに名古屋支店にも問い合わせが徐々に増え始めている。栗田和幸確認部部長は大手・準大手ゼネコンや組織設計事務所など取り引き先を訪問する中でも「様子見だった意識が徐々に変わりつつある状況を実感している」と手応えをつかんでいる。 連載(4) 竹中工務店×日本ERI BIM一貫活用がプロジェクト全体の効率化へ 竹中工務店では、2026年度に約25件のプロジェクトでBIM図面審査を活用する計画を立てている。全国で進行中のプロジェクトを洗い出し、ヒアリングしながら対象案件を絞ってきた。名古屋支店で第一号案件を含む3件を対象にしているように、他の支店も明確なターゲットを決め、BIM図面審査に向けて本格的な取り組みを始めている。 野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエンジニア申請総括は「第一号案件を通して名古屋支店がつかんだ感触を他の支店も水平展開していくことがわれわれの役割になる」と強調する。各本支店で事前相談が動き出すタイミングを見据え、プロジェクト関係者との個別説明会を全社展開していく予定で、設計本部と本支店が二人三脚で取り組むことで、全社的にBIM図面審査の対応力を高める方針だ。 尾関昭之介設計部技術・品質グループシニアチーフエキスパートは「現在は申請先が電子申請システムから確認申請CDE(共通データ環境)に変わっただけとなり、ArchSyncの操作を覚えないといけない点で負担が増えてしまうが、構造計算適合性判定や消防同意も一緒にCDE上で完結できるなら、その分の負担軽減にはなっていくだろう」と考えている。 プロジェクト特性や使い勝手など条件に応じて最適なソフトウエアを選択するopenBIMを志向する竹中工務店だが、名古屋支店ではBIMソフト「Archicad」を主体的に活用しており、第一号案件もArchicadモデルから図面を出力した。 名古屋支店の今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「BIM推進の立場からすれば建築生産を通じてBIMそもそものメリットを考える際、確認申請の部分だけBIMから切り離して対応すること自体が非効率であり、一貫してBIMデータを使っていくことがプロジェクト全体の効率化につながる」と思いを込める。 BIM図面審査に対しては、ソフトベンダー側も準備を進めてきた。Archicadを提供するグラフィソフトジャパンの飯田貴カスタマーサクセスシニアディレクターは「4月からの制度開始を機にBIM図面審査関連のシステム的な問い合わせが増えてはいるが、ユーザーには特別なことをやる必要はないとアドバイスしている。BIM図面審査における入出力基準に準じたトレーニング動画の配信もスタートしており、ベンダーとしてこれからもBIM図面審査への理解を促していく」と説明する。 今秋にリリース予定のArchicad最新版には、ALVS(A=室面積、L=採光面積、V=自然換気面積、S=自然排煙面積)などを自動で計算する仕掛けなど、BIM図面審査を意識した関連機能を強化する計画で「ArchicadユーザーがBIM図面審査に少しでも取り組みやすいように下支えしていく」と強調する。 飯田氏の目線の先には、2029年春からスタートするBIMデータ審査がある。「必要な情報をいかに効率的に集約できるか。これから3年間でBIM図面審査のユーザー事例をフィードバックしながらArchicadも進化していく」と思いを込める。第一号案件に携わった竹中工務店や日本ERIの担当者も同様だ。「データ審査までいかないとBIM確認申請のメリットを最大限に引き出すことはできない」。これは申請者、審査者の共通する思いでもある。 連載(5) 竹中工務店×日本ERI 目線の先には2029年のデータ審査 BIM図面審査による審査時間の短縮効果は期待できるか。申請者からはそうした思いが広がっている。現時点では図面の整合性確認が一部省略されるほか、電子申請への対応が消防同意でも実現することで消防への郵送期間が短くなる効果はあるものの、審査業務自体の効率化を大幅に実現することは難しい。 国土交通省ではBIM確認申請への対応に合わせ、AIの活用についても審査側に呼び掛けており、いずれAIが審査補助ツールとして機能すれば確認検査業務自体を効率化する後押しになる。日本ERI名古屋支店の原充広審査部次長は「BIMの活用だけでは限界がある。BIMデータとAIはとても相性が良いだけに、その連携が具体化すれば確認業務の合理化に結びつく」と焦点を絞り込む。 2029年春に予定されているBIMデータ審査は、BIMから出力したIFCデータをダイレクトに審査で活用する流れになり、AIを活用した確認検査に展開しやすい。日本ERIの今野渉確認企画部長は「当社としても業務の効率化は重要課題に置いているだけに、将来を見据えてAIへの対応を検討していきたい」と強調する。 竹中工務店の今福良記名古屋支店設計部BIM・VIZグループ長も「BIMデータとAIを連携させることで事前の法規チェックや環境シミュレーションなどの精度も大幅に進化する可能性がある」と期待を持っている。 BIMデータ審査の詳細はまだ固まっていないものの、審査の制度設計はより複雑になることは明らかだ。原氏は「まずはBIM図面審査で成功体験を増やしながら申請者と審査者のコミュニケーション基盤をしっかりと構築していくことが重要になる」と考えている。 第一号交付案件を審査した担当は「属性情報の位置づけが企業によって異なることから入力基準が今後どのように統一され、審査としてどのように属性の確認ができるようになっていくのか気になる」と話す。BIMデータ審査では、BIM図面審査以上に「事前相談に費やす時間が増えていく可能性もある」とも見通している。 竹中工務店の目線も既にBIMデータ審査に向けられている。野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエキスパート申請総括は「中間検査や完了検査の枠組みも大きく変わり、より合理的な検査の枠組みに移り変わることを想定して社内の議論を深めていく」と焦点を絞り込む。荒川暁郎大阪本店設計部申請グループチーフコンサルタントは「能動的にBIMデータを活用できる社内の制度設計を形づくる必要があり、申請者と審査者の双方がメリットを見いだせる枠組みをともに作り上げていくことが重要だ」と強調する。 BIM図面審査を活用して確認済証を交付されたプロジェクトは、まだ全国でも数えるほどしかない。第一号交付案件に携わった関係者からは「BIMをいかに確認申請のメリットに変えていくか」という前向きな意識があった。3年後に控えるBIMデータ審査が本番だとすれば、BIM図面審査は助走期間となる。成功体験の蓄積が大きな流れになり、それが制度としての強みに変わっていく。先をしっかりと見据え、新たな一歩を踏み出すことこそが、BIMデータ審査に続く近道であることは間違いない。

明治安田生命の事務所ビル「掛川営業部事務所」(静岡県掛川市)

Case Study

BIM図面審査
第1号交付の舞台裏

竹中工務店 × 日本ERI
明治安田生命 掛川営業部事務所
日本

建築確認の新たな制度としてBIM図面審査がスタートして一週間後の4月7日に第1号案件の確認済証が交付された。申請した竹中工務店と審査した日本ERIの担当からは「最初から狙っていた訳ではなく、うまくタイミングがあった」との声が聞こえてくる。先陣を切った両者は、どのような意識で取り組んできたか。BIM図面審査を活用した申請の動きが徐々に広がりを見せる中で、注目された第1号交付の舞台裏に迫った。

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連載(1) 竹中工務店×日本ERI

両者の思いが導いたタイミング

明治安田生命の事務所ビル「掛川営業部事務所」(静岡県掛川市)

明治安田生命の事務所ビル「掛川営業部事務所」(静岡県掛川市)

BIM図面審査による確認済証第1号交付までの流れを示した日程表

BIM図面審査の第1号交付を受けたのは、明治安田生命が静岡県掛川市内に計画している事務所ビル「掛川営業部事務所」となった。規模はS造2階建て延べ約1000㎡。設計と施工を担う竹中工務店名古屋支店が、日本ERI名古屋支店に建築確認図面一式を電子申請システムから提出したのは2026年2月16日のことだ。竹中工務店名古屋支店の吉岡亜希子設計部設計第2部門設計3グループ主任は「提出する半年ほど前から相談はしていたが、その頃からBIM図面審査を意識していたわけではなく、あくまでも着工時期に合わせるための事前相談だった」と振り返る。

BIM図面審査は、建築行政情報センター(ICBA)が運営する確認申請用CDE(共通データ環境)「ArchSync」の中で、BIMデータから描き出されたPDF図面を審査し、提出されたIFCデータを活用しながら指摘事項の確認や修正などを行うが、竹中工務店が確認書類一式を提出した2月はまだ確認申請用CDEの運用前だった。ArchSyncが開設されるのを待ってBIM図面審査の要件に沿ってPDF図面、IFCデータ、入出力基準適合誓約書の3点セットをアップロードする形で3月27日に再提出した。

竹中工務店では、BIM図面審査への対応を見据え、25年10月に社内の設計モデル・データ作成ガイドラインを改訂し、翌11月には全国の設計グループ長約70人に向けた説明会を実施するなど、BIM図面審査への準備を念入りに進めてきた。名古屋支店の今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「既に一定規模以上はすべてBIMで設計している。BIM図面審査を活用するか否かよりも、当初からBIMデータから出力した図面で提出することは決めていた。うまくタイミングがあった」と考えている。

実は、電子申請した2月の時点はArchSyncの運用前だったこともあり、BIMデータ検証ソフト「Solibri」のデータも提出していた。大阪本店の荒川暁郎設計部申請グループチーフコンサルタントは「事前にSolibriを使ってIFCデータによる形状確認をしてもらうことができた。日本ERI側に対応できる担当者がいたことが、第一号交付に結びつく要因の1つだった」と明かす。

ArchSyncに3点セットを再提出した5日後の3月31日に日本ERIによる事前審査が終了し、BIM図面審査制度がスタートした4月1日のタイミングで本受付として受理され、消防同意を経て4月7日に確認済証が交付された。竹中工務店の野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエキスパート申請総括は「国が制度開始に向けて25年11月に審査マニュアルなどの事前公表版を公開したことで、われわれ申請者側が前もって円滑な準備ができたことも、第1号交付を受ける後押しとなった」と強調する。

連載(2) 竹中工務店×日本ERI

これまでのBIM審査経験が後押しに

左から日本ERIの原氏、河端氏、今野氏、栗田氏

左から日本ERIの原氏、河端氏、今野氏、栗田氏

確認申請用CDEの利用イメージ

確認申請用CDEの利用イメージ(出典:国土交通省)

「BIM図面審査の第1号交付は名誉なことであり、国の取り組みに対して先陣を切って対応できたことは担当者の励みになる。これまでBIMへの対応に力を注いできたこともあり、支店としても今後に向けた自信にもなる」。日本ERI名古屋支店の河端快行支店長は、そう手応えを口にする。

全国33拠点で確認審査業務を展開する日本ERIでは、社を挙げてBIM図面審査への対応準備を進めてきた。今野渉確認企画部長は「10年以上前から電子申請への対応に切り替え、画面上で審査する環境には既に社として慣れている。確認申請用CDEを使った審査への抵抗感が制度スタート時からなかったことも、第一号交付に結びつく後押しになったのではないか」と考えている。

4月7日付で名古屋支店が第1号となる確認済証を交付した翌8日にも、新たな済証を交付した日本ERIでは現時点でBIM図面審査による確認済証を6件交付している。確認申請用CDEサービス「ArchSync」上に立ち上げたプロジェクトは交付済みも含め20件を超える。「当初はもう少し控えめな数字になるのではないかと予想していたが、順調な立ち上がりを見せている」と強調する。

2月に建築行政情報センター(ICBA)が開いたオンラインのArchSync審査機関向けトレーニングには、アーカイブ動画での対応も含め、全国の審査担当約600人のすべてが受講済み。万全の体制で制度開始に備えてきただけに、第1号交付は社内でも大きなインパクトとなった。

名古屋支店の原充広確認部次長は、竹中工務店の申請がBIMソフト「Archicad」を使って設計していることを聞いていたことから「実は事前相談が始まった時点で、ちょうどBIM図面審査のスタートと一致するのではないか」との感触を得ていた。「最初から狙っていたわけではないが、タイミングがあった」と思いを明かす。

制度がスタートして一週間後の4月7日に済証を交付できた要因の一つは、BIM図面審査の受け皿となるArchSyncのリリース前から、BIMデータ検証ソフト「Solibri」を使って「図面類の事前チェックを進めることができた」点が大きかった。同社はBIM導入に舵を切る大手・準大手クラスのゼネコンや組織設計事務所からBIMを活用した申請相談に以前から対応してきた。本社が軸になり、Solibriを使った事前チェックも実績を積んできた。名古屋支店も3年前から支店内で対応できる体制を確保していたことが、第一号案件への後押しになった。

これまでBIMを使った審査の試行事例は1000件規模にも達しており、全国の各支店はそれぞれで地道にBIM対応のノウハウを蓄積してきた。名古屋支店の栗田和幸確認部部長も、鹿児島支店で審査担当をしていた2018年に初めてBIMにかかわり、2次元図面を3次元化した審査を経験しただけに「私自身はひそかに第一号交付を狙っていた。支店内にBIMの審査を経験した人材がそろっていたことも、先陣を切って力強い一歩を踏み出せた要因の1つだと思う」と語る。

連載(3) 竹中工務店×日本ERI

身構える必要なく誓約書にも対応

左から竹中工務店の荒川氏、野口氏、今福氏、尾関氏、吉岡氏

左から竹中工務店の荒川氏、野口氏、今福氏、尾関氏、吉岡氏

確認申請用CDEの枠組み

確認申請用CDEの枠組み(出典:ICBA)

BIM図面審査の第一号交付に携わった関係者はそれぞれの思いを抱いて取り組んでいた。一定規模以上のプロジェクトすべてにBIMを導入している竹中工務店では以前からBIMから申請図面を出力して提出をしていた。今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「入出力基準適合誓約書というドキュメント一枚だけが追加されただけで、そのほかはこれまで取り組んできた流れと何ら変わらない」という思いを抱いた。

誓約書は、入出力基準に従ってBIMデータからPDF図面やIFCデータを出力したことを設計者自身が申告するものとなり、BIM図面審査の運用に当たって新たに加わった書類になるが「それほど身構える必要もなく、対応することができた」と付け加える。

吉岡亜希子設計部設計第2部門設計3グループ主任も「BIMモデルを作り込む部分に力を注いでいるため、モデルが完成してしまえば、副産物としての図面を円滑に切り出すことができる。あえてBIM図面審査のために新たに対応したということはなかった」と強調する。

申請を担う部門では、別の観点からBIM図面審査を捉えている。尾関昭之介設計部技術・品質グループシニアチーフエキスパートは「BIM図面審査における申請者のメリットとは何かをいまだ見いだせずにいる」と本音を語る。以前は申請図書を揃えて確認検査機関や構造計算適合性判定機関まで運ぶ手間があっただけに「今回のBIM図面審査よりも電子申請が始まった時の方がわれわれ申請者にとっては大きなメリットを享受できた」と明かす。

しかもBIM図面審査では確認申請用CDE(共通データ環境)「ArchSync」にデータをアップロードする手順を覚える必要もあり、新しいことに取り組むための負担が生じるという思いもある。「今後、構造計算適合判定や消防同意も含めCDE上で、ワンストップで審査してもらえる流れが成立すればメリットの1つになるだろう」と考えている。

第一号交付案件では、構造適判と消防同意は従来のままとなり、確認申請部分のみがArchSyncの対応になった。実は、竹中工務店名古屋支店では現在、新たに2つのプロジェクトでBIM図面審査による確認申請を日本ERI名古屋支店に提出している。このうち1件は構造適判と消防同意をCDE上で行い、残り1件は省エネ適判をCDE上で実施中。日本ERI名古屋支店の原充広確認部次長は「消防、構造、省エネの3つをワンパッケージにした取り組みはまだないが、それらをまとめてCDE上で共通のデータを審査することがBIM図面審査の目的の1つであり、それが申請者、審査者双方のメリットになってくる」と強調する。

確認部審査課では毎物件ワンパッケージで取り組みたいという思いを持っているが、構造適判や消防同意の申請先がまだ準備ができていなかった事情もあり断念した。「いずれワンパッケージの案件が出てくる」と先を見据えている。

日本ERIは、4月7日にBIM図面審査による第一号交付を完了した3日後にホームページを通じて情報発信をした。それをきっかけに名古屋支店にも問い合わせが徐々に増え始めている。栗田和幸確認部部長は大手・準大手ゼネコンや組織設計事務所など取り引き先を訪問する中でも「様子見だった意識が徐々に変わりつつある状況を実感している」と手応えをつかんでいる。

連載(4) 竹中工務店×日本ERI

BIM一貫活用がプロジェクト全体の効率化へ

BIM図面審査で確認済証第一号交付を受けた明治安田生命の事務所ビル「掛川営業部事務所」

BIM図面審査で確認済証第一号交付を受けた明治安田生命の事務所ビル「掛川営業部事務所」

建築生産におけるBIMデータの流れ

建築生産におけるBIMデータの流れ(出典:国土交通省)

竹中工務店では、2026年度に約25件のプロジェクトでBIM図面審査を活用する計画を立てている。全国で進行中のプロジェクトを洗い出し、ヒアリングしながら対象案件を絞ってきた。名古屋支店で第一号案件を含む3件を対象にしているように、他の支店も明確なターゲットを決め、BIM図面審査に向けて本格的な取り組みを始めている。

野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエンジニア申請総括は「第一号案件を通して名古屋支店がつかんだ感触を他の支店も水平展開していくことがわれわれの役割になる」と強調する。各本支店で事前相談が動き出すタイミングを見据え、プロジェクト関係者との個別説明会を全社展開していく予定で、設計本部と本支店が二人三脚で取り組むことで、全社的にBIM図面審査の対応力を高める方針だ。

尾関昭之介設計部技術・品質グループシニアチーフエキスパートは「現在は申請先が電子申請システムから確認申請CDE(共通データ環境)に変わっただけとなり、ArchSyncの操作を覚えないといけない点で負担が増えてしまうが、構造計算適合性判定や消防同意も一緒にCDE上で完結できるなら、その分の負担軽減にはなっていくだろう」と考えている。

プロジェクト特性や使い勝手など条件に応じて最適なソフトウエアを選択するopenBIMを志向する竹中工務店だが、名古屋支店ではBIMソフト「Archicad」を主体的に活用しており、第一号案件もArchicadモデルから図面を出力した。

名古屋支店の今福良記設計部BIM・VIZグループ長は「BIM推進の立場からすれば建築生産を通じてBIMそもそものメリットを考える際、確認申請の部分だけBIMから切り離して対応すること自体が非効率であり、一貫してBIMデータを使っていくことがプロジェクト全体の効率化につながる」と思いを込める。

BIM図面審査に対しては、ソフトベンダー側も準備を進めてきた。Archicadを提供するグラフィソフトジャパンの飯田貴カスタマーサクセスシニアディレクターは「4月からの制度開始を機にBIM図面審査関連のシステム的な問い合わせが増えてはいるが、ユーザーには特別なことをやる必要はないとアドバイスしている。BIM図面審査における入出力基準に準じたトレーニング動画の配信もスタートしており、ベンダーとしてこれからもBIM図面審査への理解を促していく」と説明する。

今秋にリリース予定のArchicad最新版には、ALVS(A=室面積、L=採光面積、V=自然換気面積、S=自然排煙面積)などを自動で計算する仕掛けなど、BIM図面審査を意識した関連機能を強化する計画で「ArchicadユーザーがBIM図面審査に少しでも取り組みやすいように下支えしていく」と強調する。

飯田氏の目線の先には、2029年春からスタートするBIMデータ審査がある。「必要な情報をいかに効率的に集約できるか。これから3年間でBIM図面審査のユーザー事例をフィードバックしながらArchicadも進化していく」と思いを込める。第一号案件に携わった竹中工務店や日本ERIの担当者も同様だ。「データ審査までいかないとBIM確認申請のメリットを最大限に引き出すことはできない」。これは申請者、審査者の共通する思いでもある。

連載(5) 竹中工務店×日本ERI

目線の先には2029年のデータ審査

BIM図面審査とBIMデータ審査における提出範囲と審査対象範囲を比較した図
取材後の竹中工務店と日本ERIの関係者

取材後の竹中工務店と日本ERIの関係者

BIM図面審査による審査時間の短縮効果は期待できるか。申請者からはそうした思いが広がっている。現時点では図面の整合性確認が一部省略されるほか、電子申請への対応が消防同意でも実現することで消防への郵送期間が短くなる効果はあるものの、審査業務自体の効率化を大幅に実現することは難しい。

国土交通省ではBIM確認申請への対応に合わせ、AIの活用についても審査側に呼び掛けており、いずれAIが審査補助ツールとして機能すれば確認検査業務自体を効率化する後押しになる。日本ERI名古屋支店の原充広審査部次長は「BIMの活用だけでは限界がある。BIMデータとAIはとても相性が良いだけに、その連携が具体化すれば確認業務の合理化に結びつく」と焦点を絞り込む。

2029年春に予定されているBIMデータ審査は、BIMから出力したIFCデータをダイレクトに審査で活用する流れになり、AIを活用した確認検査に展開しやすい。日本ERIの今野渉確認企画部長は「当社としても業務の効率化は重要課題に置いているだけに、将来を見据えてAIへの対応を検討していきたい」と強調する。

竹中工務店の今福良記名古屋支店設計部BIM・VIZグループ長も「BIMデータとAIを連携させることで事前の法規チェックや環境シミュレーションなどの精度も大幅に進化する可能性がある」と期待を持っている。

BIMデータ審査の詳細はまだ固まっていないものの、審査の制度設計はより複雑になることは明らかだ。原氏は「まずはBIM図面審査で成功体験を増やしながら申請者と審査者のコミュニケーション基盤をしっかりと構築していくことが重要になる」と考えている。

第一号交付案件を審査した担当は「属性情報の位置づけが企業によって異なることから入力基準が今後どのように統一され、審査としてどのように属性の確認ができるようになっていくのか気になる」と話す。BIMデータ審査では、BIM図面審査以上に「事前相談に費やす時間が増えていく可能性もある」とも見通している。

竹中工務店の目線も既にBIMデータ審査に向けられている。野口元設計本部設計企画部設計企画グループシニアチーフエキスパート申請総括は「中間検査や完了検査の枠組みも大きく変わり、より合理的な検査の枠組みに移り変わることを想定して社内の議論を深めていく」と焦点を絞り込む。荒川暁郎大阪本店設計部申請グループチーフコンサルタントは「能動的にBIMデータを活用できる社内の制度設計を形づくる必要があり、申請者と審査者の双方がメリットを見いだせる枠組みをともに作り上げていくことが重要だ」と強調する。

BIM図面審査を活用して確認済証を交付されたプロジェクトは、まだ全国でも数えるほどしかない。第一号交付案件に携わった関係者からは「BIMをいかに確認申請のメリットに変えていくか」という前向きな意識があった。3年後に控えるBIMデータ審査が本番だとすれば、BIM図面審査は助走期間となる。成功体験の蓄積が大きな流れになり、それが制度としての強みに変わっていく。先をしっかりと見据え、新たな一歩を踏み出すことこそが、BIMデータ審査に続く近道であることは間違いない。