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建築・土木系学生向けコミュニティスペース TONKAN

建築・土木系学生向けコミュニティスペース TONKAN

コロナ禍を経て、設計業務のあり方は確実に変わりつつある。環境や持続可能性への配慮という社会的な要請も踏まえて、設計事務所やソフトウェアベンダーは今、どのように建築設計に取り組むべきなのか。他社との協働を積極的に行っているナスカの八木佐千子氏を迎えて、実務における知識の継承やクライアントとの合意形成、BIMにおけるAIの可能性など、幅広くお話を伺った。

松江土建株式会社 × 有限会社落合建具製作所<p class='matsuedoken-ochiaitategu-2024 case-studies-caption'></p>

松江土建株式会社 × 有限会社落合建具製作所

BIM技術外部パートナー 山陰地方にある島根県は、全国で2番目に人口が少ない地。建築業界者も限られたこのエリアで、積極的にBIMの導入を進めているメンバーがいる。地域密着型の総合建設業である松江土建と、明治10(1877)年から続く老舗、落合建具製作所だ。松江土建建築部営繕・積算課設計担当主任の佐藤さんは、島根県に拠点を置くグラフィソフト認定のArchicad ユーザーグループ「山陰Archicadフォーラム」の運営スタッフでもある。 「より質の高いパースを作りたいと考えてArchicadを導入しました。当時、会社としても初めてのBIMの取り組みでしたが、ユーザー会の仲間と一緒に勉強することができたので、とても心強かったです」 基礎的な知識を修得した佐藤さんは昨年、Graphisoft認定Archicad BIM Manager の資格を取得した。 「BIMを複数人で使うためにはルールが必要なことを感じていました。講座では、誰がいつ見てもわかるデータにするためには何をするべきか、そのノウハウを学びました。入力する人、そのデータをチェックする人、指示を出す人、そういう役割づくりや、目的を設定する必要性があることも理解できました」 BIMプロジェクトメンバーに任命されたのが、現場の仮設事務所にデスクを構えるIT・技術部IT推進課主任中島さんと、現場サポートとしてArchicad上で入力や干渉チェック、数量算出などを行う建築部工事課佐川さんだ。 「まずはBIMで何をどこまで作るのか、各現場で目標を決めるのが目下の課題です」 ボーダーレスなBIMだからアイデアを形にできる。建具・家具づくりに応用した落合さんの取り組み 松江土建の古くからのパートナーである落合建具製作所の代表・落合稔さんがArchicadを使い始めたのは、還暦間近の59歳。今では建具屋の枠を超えて、施工図まで描く。 「きっかけはコロナ禍。自粛期間中に、大きな住宅改装の製作家具・建具を受注したのですが、お施主さんが妊娠中だったんです。遠隔で話すことしかできず、どうやって表現したら伝わるのだろうと悩んだ時に、これだ!と」 この頃すでに、高校の後輩に勧められてArchicadを購入していた落合さん。3Dで図面を“見える化”することで、施主とデータ上で話を進めることができた。 「お客さんは専門的な話をしても当然わからないので、イメージが共有できることはとても大事。そのスムーズさ、ラクさを覚えて、BIMの世界にどんどんハマっていきました」 最初はわからないことだらけだった落合さん。佐藤さんも所属するユーザー会で積極的に教わった。「使い慣れた2DCADに戻りたくなるけど、そうすると成長しないので思い切って2DCAD断ちした」のが功を奏したという落合さん。落合さんに、BIMを使うメリットを尋ねてみた。 [メリット❶] 製造工程の前倒し=「フロントローディング」ができる 上流で構想している段階から、設計士と一緒に具体的なところまでビジュアル化して考えることができるので、建具職人の技術が活きた設計になる。その結果、製造途中の修正回数が減り、完成までのスピードがものすごく早くなった。 [メリット❷] 修正作業がラク BIMは平面図・立面図・3Dと全てにリンクしているので、修正が入ったとしても、平面図・立面図・3Dそれぞれに修正を加えずに、一度で一気に修正ができる。これまでは2-3日かかっていた作業が1時間程度で完了することも。 [メリット❸] 全国に仲間が増えた ユーザー会に参加することで、名古屋在住のパートナーを見つけたという落合さん。離れていても、Archicad レギュラー版が備えている共有プロジェクト機能「チームワーク」を使えば、BIMcloud上で繋がることができる。ユーザーフェストという年に1回開催されるユーザー同士のフェスで新たな仲間が見つかることも。 [メリット❹] 無理難題なリクエストにも応えられる 無理難題なリクエスト建具・家具の施工図のために始めたBIMだったが、やっているうちに閃いて、こうしたらもっとリアリティが出るんじゃないかとか、もしかしたらこれもできるんじゃないかなど、突き詰めていった落合さん。Archicadを応用して新たな領域にもチャレンジした結果、大量生産や複雑な案件にも対応できるようになった。 複合施設「さんびる文化センター プラバホール」 松江市にあるさんびる文化センターのリニューアルの際は、複合棚やマガジンラックについて、監理者とBIMxで修正箇所の情報をやりとりした。 泊まれるジオパーク拠点施設「Entô」 島根県・隠岐諸島にある、ユネスコジオパーク認定の風光明媚な島の港に建つ島内唯一のホテル。このホテルの木製建具を手掛けた。 仲間がいてこそ発揮されるBIMが持つ無限の可能性 落合さんと佐藤さんはユーザー会で出会い、2022年から仕事のパートナーでもある。 「これまでは社内だけでBIMを使っていたのですが、2022年頃からBIMcloudを使って外部のパートナーさんたちとBIM上でデータをやりとりするようになりました」と佐藤さん。例えば、佐藤さんが施主と打ち合わせをした内容をArchicadを使って入力すると、落合さんがそこに入っている家具の概略モデルをBIMcloud上で詳細に作りかえる、という流れ。データはアイスバーグ方式で、「工作室」という名前を付けて共有で保管する。 「今日はこの家具を作ったよ、と落合さんから連絡が入ると、チームワークのデータを見に行くんです。すると、私がArchicadで入力した四角い家具に棚までできていて。お互いに少しずつ詳細を詰めていきながら、BIMcloud上で家具を含めた建物がどんどん完成していく様子を見るのは感動的です!」 3Dで想いを伝え確認し合えるのは、効率的でもあった。佐藤さんは、社内のBIM活用を推進するために、BIMを使った事例を社内報で報告する。さらに効率よくBIMを活用できるように、外部から技術パートナーにも協力してもらっている。 「BIMは目的を持って使ってこそ力を発揮する道具です。データはいくらでも入るので、関係のないデータを入れても仕事量が増えるだけ。今はまだ、BIMを使うメリットやOPENにする意義などを社内報で啓蒙している段階。施工段階での使用は3Dモデルをベースに、必要なところで図面に切り出して、現場が情報を加えて業者にアウトプットしていく程度ですが、作図の作業量が減ったので、それだけでも現場の手間が減り、生産向上につながりました」 ただ今、少しずつ社内ユーザーを増やしながら、仲間と共に、施工BIMでどこまでできるか挑戦中だ。

有限会社佐藤建築構造設計事務所

有限会社佐藤建築構造設計事務所

お話を伺った方々 世界基準に追い付くため、BIM導入を決意 2013年、千葉県内の建築関係者とともに海外視察へ赴いた佐藤建築構造設計事務所の取締役、佐藤暢彦氏(以下、佐藤氏)。現地ではすでに設計に3Dモデルが使われている様子を見学してきた。その後、日本に戻り「日本の若手が2DCADだけ触っていては世界基準に追い付かない。日本でも当たり前のようにBIMが使えるようにならなくては後れをとってしまうし、この先の担い手確保にも影響する」と考え、前向きにBIM導入を検討するようになる。 その頃、日本では大手ゼネコンを筆頭に少しずつBIM導入が進んでいた。同社では、2016年にグラフィソフトにコンタクトを取り、2018年にIT導入補助金を使って導入に至った。導入してからの2~3年は操作に戸惑うこともあったというが、5年経過した2023年現在は問題なく業務に溶け込み、BIMの活用範囲は拡大中だ。 確認申請の書類づくりが1.5倍にスピードアップ BIMは設計精度を上げるコミュニケーションツール 同社では、主に意匠設計事務所からの依頼で、構造設計を担当するケースが多い。このときの業務フローには3つのステップがある。 【構造設計事務所が2D図面をBIM化するステップ】 意匠設計事務所からデザインした建物の2D図面を受け取る。 国内標準仕様「ST-Bridge」を介してから、一貫構造計算ソフトウェア「Super Build/SS7」に入力して構造計算を行う。 計算結果から座標情報を取得し、「Archicad」を使用してBIM化する。 この一連の流れを経て、早い段階からBIMを使って3Dモデル化することが、設計精度を上げるためのポイントだ。視覚的にわかりやすい図面となることで、設計業務における円滑なコミュニケーションツールとして一翼を担う。 ■ ST-Bridgeからデータを引き継いでArchicadで設計する流れ 仮定断面で意匠設計と構造設計をつなぐ 施主へのプレゼンテーションにも3Dが有効 また、BIMのコミュニケーションツールとしての役割は、施主に向けてもメリットが多い。これまで同社では意匠設計が決めた内容が反映された図面を受け取って、社内で構造設計をすることが仕事だった。 しかし今では、阿部氏が施主との打合せに出席して、直接ディスカッションを重ねていくスタイルに進化。施主の目の前で3Dモデルを見せながら梁のかかり方などを視覚的に解説する。そうすることで、意匠設計と構造設計のそれぞれの課題を解決し、スピーディに施主の合意まで仰げるようになった。 阿部氏は述べる。「どうしても意匠設計の担当者と構造設計の私が考えていることが2D図面だけでは合致していないことがあるんです。そうなると、後々“思っていたことと違う”というトラブルになりかねません。その点、3Dモデルを見ながら打合せをすることはトラブル回避につながり助けられています」。 さらに、佐藤氏は補足する。「BIMを使うことで施主は建物を2回建てる経験ができます。1回目はBIM上で、そして2回目で実際の建物が建ちます。ここでも“思っていたことと違う”というトラブルを防ぐために、BIMを使って予め検討できることがすごく大切なのです」。 構造設計の醍醐味と、BIM活用の工夫 ■ 継手リスト 千葉県で実施している、BIM推進の舞台裏とは 同社のBIM導入と同じタイミングで「千葉県BIM推進協議会」も結成となり、佐藤氏は協議会の立ち上げから2期連続で議長を務め、現在も現議長・河原氏をサポートする立場で活動中だ。現在、千葉県BIM推進協議会の会員数は約60名、特に若手が多く、阿部氏は構造部会長という立場で、さらなるBIM普及を急ぐ。県内の建築に携わる30代から40代のメンバーが中心となり、会社の垣根を超えた横のつながりで情報交換会や勉強会を開催し、設計業務のスキルアップに努めている。 協議会はその名の通り、千葉県内の建築業界におけるBIM推進に加え、県の公共工事においてBIM活用を進めるべく、発注時に設定する、納品のデータ形式やその後のデータ使用方法についてや、BIM活用によって得られる工事全体のコスト削減、建設費と設計料におけるソフトのランニングコスト及びフロントローディングなど、千葉県職員が参画することで、公共工事における発注者側の環境構築の一翼を担っている。現在千葉県では、公共工事の入札条件にBIM活用は条件ではないが、同社では請け負ったプロジェクトの成果物に3Dモデルを添付してはBIMの魅力を拡大していくなど、新しい試みも積極的に行っている。 「ある擁壁の改修工事では、2Dでは表現しにくい高低差のある敷地形状でしたので、3Dモデル化しました。発注担当者からも、設備関係の干渉が分かりやすいと好評でした。成果物の要件にはなかったとしても、わかりやすく伝える方法を選んでこのようにしています」と阿部氏。 佐藤氏は、「この先もずっと2Dで設計するわけにはいかないと思います。私たちの一つひとつの活動が重なってBIMが要件となった公共工事発注の起爆剤になるといい」と希望を語った。