グラフィソフトジャパン × ナスカ一級建築士事務所 座談会<p class='gsj-studionasca-2025 case-studies-caption'></p>

グラフィソフトジャパン × ナスカ一級建築士事務所 座談会

コロナ禍を経て、設計業務のあり方は確実に変わりつつある。環境や持続可能性への配慮という社会的な要請も踏まえて、設計事務所やソフトウェアベンダーは今、どのように建築設計に取り組むべきなのか。他社との協働を積極的に行っているナスカの八木佐千子氏を迎えて、実務における知識の継承やクライアントとの合意形成、BIMにおけるAIの可能性など、幅広くお話を伺った。

トロム ペーテル


グラフィソフトジャパン
代表取締役

飯田 貴


グラフィソフトジャパン
代表取締役

八木 佐千子


ナスカ一級建築士事務所
代表取締役

コロナ禍を経て、設計業務のあり方は確実に変わりつつある。環境や持続可能性への配慮という社会的な要請も踏まえて、設計事務所やソフトウェアベンダーは今、どのように建築設計に取り組むべきなのか。他社との協働を積極的に行っているナスカの八木佐千子氏を迎えて、実務における知識の継承やクライアントとの合意形成、BIMにおけるAIの可能性など、幅広くお話を伺った。

有限会社ナスカ一級建築士事務所https://www.studio-nasca.com/


所在地: 東京都新宿区
代表: 古谷 誠章 / 八木 佐千子
創業: 1994年
業務内容:
・都市計画に関する企画、調査、設計及び監理
・建築物の企画、設計、監理及びコンサルタント
・上記に付帯する一切の業務

若手とベテランのコラボレーションが必要

八木(ナスカ)

当社でも、長らく使い慣れた2Dソフトから離れられなかったのですが、コロナ禍で対面での打合せや、模型を囲んでワイワイ検討することがしづらくなったことがArchicad導入の追い風になりました。DXの利用で、最近は遠方の意匠設計事務所ともコラボレーションすることがすごく多くなっています。全国各地の事務所とチームを組むと、その地域ならでは風習や技術などを学べますし、お互いに刺激し合えるということでWin-Winの感じがありますね。
私たちは南会津の「はりゅうウッドスタジオ」と東日本大震災をきっかけに時折協働しているのですが、山深い中で活動されているので、DX的な取り組みや情報発信についても、だいぶ前から先進的にやられていて、彼らはArchicadでさまざまな地域にいるメンバーとチームワークを組んで設計を進めています。どこにいてもつながれるので、子育てや親の介護世代もコラボレートの機会が継続しています。

トロム(グラフィソフトジャパン)

BIMにはさまざまなメリットがありますが、最終的にはクリエイティブな方々がつながる環境をつくるということに尽きるのではないでしょうか。設計者のプラットフォームになるような仕組みだと思います。

八木(ナスカ)

ただ、BIMを実務で使う際は、設計業務の中身を曲がりなりにも一通り知っていないと手が動かなくなっているようです。だからソフトを動かすのは新人たちでもよいのだけれど、その建築の実務的な勘どころを判断できる人との協働体制が取れれば、BIMによる設計がより一層浸透していくでしょうね。
また、これまで基本設計の後、実施設計に入ると、平面詳細図をとりあえず描いて、その次に立面、断面を切って、最後に描かれる展開図や建具表等がないがしろにされてきたようなところがありました。しかし今、Archicadを使おうとすると、一度に立体でものの成り立ちを考える必要があるわけですね。それは、すごくよいことなのではないかと思っているんです。

トロム(グラフィソフトジャパン)

これまでは平面図を描くときは平面で出てこないような問題を後回しにすることができたわけですね。平面で描きたいことを描いた後、それが立面、断面でどのように描けるのかは後で考えようと。BIMでは、そのような方法は取れなくなってくる。最初から建物全体を丸々つくることになるので、全体を理解した上で作業しなければならないという意味では、設計の方法が変わってきているんですね。そうするとやはり、ソフトの操作がわかる若手と、建築がわかっているベテランとのコラボレーションが必要になってくる。それによってBIMと建築、それぞれの知識が共有できるという利点もありますね。

飯田(グラフィソフトジャパン)

たとえば断面図をたくさん切っていくことで、これまで展開図に描いてきた内容がある程度済んでしまったりすることがあります。作業中に必要になる図面が変わってきているし、新たな活用方法も生まれています。そのプロセスにおいても建築に熟達している方が「これでわかるよね」という風にアイデアを出されているんですね。さまざまな立場の方々の視点を生かしていくことが重要になっています。

八木(ナスカ)

Archicadのユーザーが勉強会を行っているというのが不思議だったのですが、最近理解することができました。私としては大金を払って完璧なソフトを買っているものだと思っていたのですが(笑)。ユーザーはソフト開発に携わるメンバーなのだと自覚して参加すると、一層やる気になると思います。

飯田(グラフィソフトジャパン)

そうですね。BIMはまだまだ完成されていない分野で、人によって求めるものが違いますし、裾野が広いと思います。意匠デザイナーから施工系のオペレーターまで、それぞれに異なる要望をもっています。さまざまなご意見を透明性をもって集めて、製品に反映していくという作業に取り組んでいます。

八木(ナスカ)

あと、気になっていたのはBIMソフトには“部品”のような窓とか建具といったものがデフォルトで入っていますよね。新人がそういうツールを使って、福笑いのような図面を上げてきたときには、さすがに困りました。デザインの意図が表現しにくい。手描きの時代のように「一本の線に込められた魂」をBIMでも表現できるとよいのですが。

トロム(グラフィソフトジャパン)

BIMでは最初から実施設計のようになってしまい、意図しない方向に作業が進んでしまうことがありますよね。それに対してはBIMのLOD(Level of Detail)、詳細度を落とすという方法があります。たとえば「透明な開口部」とするのか、単に「開口部」としておくのかといった風に、初期の段階では詳細度を落として設定することで、余計なことを考えず、作品のコンセプトに集中しながら作業を進めることができるわけです。

BIMによる合意形成と長期間にわたるデータ活用の可能性

八木(ナスカ)

今、はりゅうウッドスタジオと取り組んでいる県立病院の設計業務は、BIM利用を要件として発注されたんです。県はこれまでBIMで設計発注をしたことがなかったので、一緒にトライしてくれる相手を探していたのだと。基本設計段階から打合せではオンライン画面上でBIMを操作して、ウォークスルーしながらご案内できるので、双方の理解が進み、とても便利です。
一方でBIMを使っていると、発注者になんでもできると思われてしまう節があります。毎回の打合せにレンダリングされた3Dモデルが出てくると思われたりして、そこはこちらとしてももどかしい。まだ途中なんですよ、とお話ししたりするのですが。
同じく今、はりゅうウッドスタジオと一緒に宮城県富谷市の図書館等複合施設の現場に入っているのですが、私たちがBIMで図面を作成していることを聞きつけた市の施設準備室長から3Dデータが欲しいと言われたんです。プレゼン用につくったわけではないので、とお話ししたのですが、担当の方は個人的に見てみたいと。データをお渡ししたら、VRのヘッドセットまで買って、夜な夜なあちこち“散歩”したらしく、「ここの梁が頭に当たりそうだけど大丈夫ですか」「ここが死角になるのではないか」と。誰よりも建物に詳しくなられているというのはうれしいです(笑)。
よいところも怪しい部分も発見していただけるということで、いい感じでこれらのプロジェクトは進められていると思います。

トロム(グラフィソフトジャパン)

発注者と設計者の間の合意形成というか、一緒に建築をつくっていく者同士の確認作業が容易だということが、BIMの基本的な価値の一つです。イギリスやシンガポールなどBIMの標準化が進んでいる国では、発注者のBIMへの意識が高いこともあり、BIMが要件として明示されていて、契約書に含めるようなやり方が増えていますね。
発注者側のメリットというのは設計・施工だけでなく、その後の維持・管理の段階で明確になります。発注者のコストは設計・施工が2割だとしたら、8割が維持・管理にかかってくるので、そのためのツールとして活用するべく、BIMデータを提出してもらいたいということなんですね。とくに物流センターや病院、空港など、用途が複雑で維持・管理が難しい施設の発注者からBIMをリクエストされるケースが多いですね。

飯田(グラフィソフトジャパン)

クライアントに「BIMで作業する利点はなんでしょうか」とお聞きしたときに、モデルを見れば、どこまで設計が進んでいるのかが一目でわかるということを挙げる方も多いですね。また、発注者によって見たい、欲しい情報が変わってくるので、いろいろなデータの見せ方ができるということが重要になっています。Archicadではデータのフィルタリング機能を使って、情報をリストで確認するなど、アウトプットすることができます。本当に欲しい情報を望ましいかたちで出力するのが容易であるということがBIMの特徴の一つだと思います。

トロム(グラフィソフトジャパン)

計画から維持・管理の段階まで、データを長期的に活用できるということがますます重要になっていますね。ベンダーに関係なくBIMデータを使えることが求められますし、Open BIMやIFC(Industry Foundation Classes)といった考え方に基づいて、我々も根本的なテーマとして取り組んでいます。

八木(ナスカ)

ナスカも設立30年を超え、当社が設計した建築が今、中長期改修や大規模改修の時期に差しかかっているんです。築20年ぐらいの作品については2DデータやPDF、紙製本図を寄せ集めていますが、本当はBIMを使って当時の施工図や製作図、予算書の数量や途中の修繕履歴等も全部紐づけて一元化したい。でも、いろいろなものを引っ張り出してきて、紐づけるほど重たくなっていくし、複雑化もすると。データを長く使うためには、本当はいかにシンプルにできるかが大事だと思います。

トロム(グラフィソフトジャパン)

BIMにすべての情報を入れようとすると、データ量が膨大になって作業が成立しなくなってしまうということがあると思います。それを避けるためには、たとえばBIMを一つのデータの箱としてとらえて、場合によってこの部分の情報はBIMではなくPDFでもいいとか、ルールを決めてBIMにリンクさせていく、BIM化する情報に制限をかけるという方法があります。それによって労力とメリットのバランスが取れやすくなるのではないかと思いますね。

飯田(グラフィソフトジャパン)

実際、BIMデータはシンプルにするのが一番難しいことなんですね。今、どんな情報が本当に必要なものなのか、その線引きをすることが機能としても求められていますし、それに応えていきたいと思います。
また、ArchicadでもAIアシスト機能のサポートが予定されています。画像生成AIはすでに導入されていますが、設計業務のAIアシストはこれから実装していく段階にあり、さまざまな使い方が考えられます。案件によって必要な情報が定められれば、自動的に処理したり、効率化したりといったことが可能になるので、かなり期待できると思います。

トロム(グラフィソフトジャパン)

AIはBIMが難しいツールで複雑なことをしなければならないという先入観を大きく変えていくのではないでしょうか。ツールというよりも、よきパートナーのような存在になっていく。手間ばかりかかって付加価値が大きくないようなところは全部AIに任せて、設計者がクリエイティビティやサステナビリティに注力しやすい環境を用意してくれるわけです。

富谷市民図書館等複合施設(NASCA+はりゅうウッドスタジオ設計JV、2026年3月竣工予定)における活用事例。

Archicadで実施図面作成→Twinmotionでレンダリングして完成予想パース作成

Archicadで実施図面作成→Grasshopperで調整しながら屋根形状決定

設計者のよきパートナーとしてのBIM

トロム(グラフィソフトジャパン)

我々の会社はハンガリーに本社があるのですが、ヨーロッパでは伝統的にリノベーションやサステナビリティといった思想が建築の基本になっているんです。Archicadでも昔からリノベーションを想定した、さまざまな機能を用意しています。サステナビリティに関しても、たとえばカーボンエミッションの計算を行うソリューションとの連携等に継続的に取り組んでいます。

八木(ナスカ)

建築には「継承と更新」という考え方があります。建築は骨格がきちんとしていれば、その部分を継承していって、内装や建具、設備等は更新していく。日々のメンテナンスを行い、愛情を注いでいけば、その建築は長生きするんですね。
建築を改修するためには紙の図面や実物が残っていれば、それを測れば済むことなので、そこまでデータに頼らなくてもいいんじゃないかと実は思っているんです(笑)。頼りすぎると万が一、データがなくなってしまったときに、なにもわからなくなってしまう。実は私は紙信奉者なのです。
先ほどのお話のように、AIに任せた方がいい部分も当然あるのですが、AIはこれまでの知識の蓄積で成り立っている“頭脳”だから、そこからは新しいものは生まれないのではないかと。だから、新しいものを生み出すのは人間。AIは人間がやりたいことをサポートしてくれるよきパートナーとして、きちんとしたデータを確立していくことが大切だと思いますね。

左から 飯田貴 氏(グラフィソフトジャパン)、八木佐千子 氏(ナスカ一級建築士事務所)、トロムペーテル 氏(グラフィソフトジャパン)

Archicadの詳細情報はカタログをご覧ください

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