
多くの設計事務所が「2Dからの脱却」としてBIMを後から導入するなか、大阪と東京に事務所を構える株式会社ラフトは少し違う。創業期からBIMを設計プロセスに取り入れ、顧客との対話、社内の設計品質向上、組織的なナレッジ共有に活かしてきた、いわば「BIMネイティブ」な設計事務所だ。4人でスタートした事務所は約10年で50人規模へと成長し、福祉施設や子ども施設、そして公共建築まで手がけるようになった。その歩みのなかで、Archicadはどんな役割を果たしてきたのか。今回は、創業期からBIMを牽引してきた取締役所長の海老澤 一晃氏と、BIM推進室のリーダーを務める官 偉鳴氏にツールと組織づくりの両面から話を伺った。
創業期からBIMを設計に取り入れ
差別化の武器として選んだArchicad
ラフトのBIMは、2Dからの脱却として後から選んだスキルではない。会社設立時から、経営の中心にArchicadが据えられていた。きっかけは、取締役所長・海老澤 一晃氏(以下:海老澤氏)の前職時代にさかのぼる。当時勤めていた設計事務所ではBIMに触れる機会があり、先駆的にArchicadを学び、実務を重ねていった。その経験を携えて、海老澤氏は同社の立ち上げに加わる。創業メンバーはわずか4人。「大阪で一番の設計事務所になりたい」というビジョンを掲げた小さな事務所が、どう差別化していくのか。その答えの一つが、前職で魅力を知り尽くしていたBIMだった。
「小さい設計事務所だからこそ、率先してBIMに関わっていこう」。そう決意して取り組み始めたのが、同社のBIMのスタートだった。2Dから移行するのではなく、最初から3Dで設計する。この「BIMネイティブ」な出発点が、その後の歩みを方向づけていく。創業から10年を経た現在も、意匠設計の中心は一貫してArchicadだ。設備設計では他ツールも併用するが、Archicadの導入ライセンスは30を超え、設計の隅々にまで根を張っている。

「小さい設計事務所だからこそ率先してBIMに関わっていこう」。創業時の決断が、その後の差別化につながった
伝わるから、選ばれる
施主にも、行政にも届くプレゼン力
最初から武器にしようと決めたBIMは、まずお客様との対話の場で、その力を発揮した。海老澤氏がBIMの魅力として挙げるポイントは「ビジュアルでお客様とイメージを共有できること」だ。「打ち合わせの場で断面を切ったり、ウォークスルーで見せたり。BIMxで書き出したデータをお渡しして、お客様自身にスクリーンショットを撮ってもらい、気になるところを送り返してもらう。そういうやり取りが、もう10年前の時点で十分にできていました」。この視覚的なコミュニケーションができれば、図面の読み書きに慣れていないお客様とも、認識のずれがないまま、スピード感を持って進められる。
このビジュアルの力がとりわけ際立つのが、同社が力を入れる福祉施設や子ども施設だ。仮に、お客様がマンションデベロッパーであれば相手も建築のプロなので、2D図面で意思疎通ができる。だが子ども施設の打ち合わせ相手は、理事長や園長といった、普段は子どもたちに向き合う人々だ。当然、いきなり2D図面を見せても伝わりにくい。「だからこそ3Dモデルを起こして、『こういう施設になりますよ』とご説明する。Archicadは建築から距離のあるお客様にこそ、効果的なアプローチになります」と海老澤氏は語る。
そして同じ「伝わる力」は、受注そのものを左右する公共建築のプロポーザルでも武器になった。プロポーザルで案件を勝ち取れる規模へと成長できた背景にも、この可視化の力があると海老澤氏は見る。技術提案書で設計フローや解決策を示す際、BIMを使えば効果的に伝わる。公共の案件でも、窓口を担当する建築の専門家の先には、市長や副市長といった建築から遠い決定者がいるからだ。BIM推進室リーダーで設計者の官 偉鳴氏(以下、官氏)は「建物の形状とランドスケープの関係などを3Dで見せれば、建築に詳しくない決定者にも、提案の魅力がそのまま伝わるんです」と話す。この伝わる力はそのまま選ばれる要素となっていった。
【箕面市民温水プール】

プロポーザル提案パース

プロポーザル提案パース

パンフレット用パース

設備納まりの検討
【明徳保育園】

南東側外観

南東側外観パース

絵本コーナー

絵本コーナーパース
建築から距離のある子ども施設、公共施設、福祉施設のプレゼンテーションでは、Archicadで作成した3Dモデルが一役を担う
設計の中身が速く、深くなる
問題抽出から竣工後まで
伝える力が受注に寄与する一方で、Archicadは社内でも設計そのものの「質」と「速さ」を変えていった。
一つ目、設計の質について。ラフトには、経験の浅いスタッフが描いた図面をチーフが3Dで確認する業務フローが根づいている。平面図だけで設計の良し悪しを判断するには相応の経験が要る。たとえば廊下の幅員ひとつとっても、その用途や、そこで過ごす人の身体的な特徴を踏まえて判断しなければならない。「すべての納まりをArchicadだけで詰めきるのは難しい。それでも、どこに問題があるのかという問題の抽出には、3Dが本当に役立ちます」と海老澤氏。この強みは施工現場でも生きる。「雨樋の納まりを職人さんにどう伝えるか。立面図では3次元のイメージが伝わりにくいので、BIMxの画面をスクリーンショットして、画像に描き込みながら指示を出します」と官氏は語る。
そして、二つ目、仕事の速さにも影響を与えている。ほとんどのBIMの初学者は入り口で戸惑い、習得するまでには一定の時間がかかる。だが、ある壁を越えると景色が変わるという。「BIMを使えば、基本設計と実施設計が同時並行で進むんです。普段は担当者を分けがちな基本設計・実施設計・確認申請・監理を、BIMと建築の知識を両方使える人なら一気通貫でこなせて、工程そのもののスケジュールを縮められる。それが、お客様の『早く着工したい』という思いに応えるスピードにつながります」と官氏は語る。
以前の2D CADでは平面図・立面図・断面図が独立し、ひとつ直すたびに手戻りが多かった。Archicadなら壁をひとつ変えれば断面図にも自動で反映されるため、計画変更にも強い。この質と速さは、竣工後まで途切れない。同社では設計から監理までを一括で請け負う案件も多く、基本設計から実施設計、申請関連の写真まで、すべてのデータをArchicad上で一元管理している。「計画変更が出ても、どこをどう変えたのかをすぐにたどれる。工事が進むに合わせて、BIMデータもそのまま更新されていく。いわば成長していく図面です」と官氏は表現する。

「習得の壁を越えれば、基本設計と実施設計が同時に進む」と官氏。設計の質と速さを、竣工後まで途切れさせない
強みを「個人」から「組織」へ
温度差をなくすBIM推進室
こうしたBIM設計の強みを、特定の誰かの腕前で終わらせない。同社はBIMを組織の文化へと育ててきた。50人規模の設計事務所へと拡大するなかで、知見が個人に偏らず蓄積されるよう整えた仕組みの中核が、BIM推進室だ。このメンバーの選び方が特徴的だ。建築設計室、構造設計室、設備設計室、デザイン設計室から一人ずつ、もっともArchicadに向き合っている若手の実務者で構成されているのだ。その理由を海老澤氏はこう説明する。「チームの管理者は、すでに自分で図面を描く立場ではなくなっています。それより、いま実務でツールに向き合っている人のほうが、断然、課題意識も改善の意識も高いんです」。BIM推進室は月1回の検討会を開き、メンバーが担当パートごとにテンプレートの変更点や実務のコツを持ち寄って共有する。
2025年度には全社員がZoomで同時接続する研修会も実施した。担当者がArchicadのTipsを画面共有しながら解説し、その様子は動画として記録。後から何度でも見返せるようにして、全社のナレッジとしてスキルを底上げしている。こうした情報共有の積み重ねが、BIMへの意識に温度差を生まない土台になっている。チームの管理者はチェックと総括に回り、BIM推進室の若手が現場の知見を吸い上げる。この役割分担が、同社のBIM教育に直結している。文化は、仕組みだけでなく、人の選び方と育て方にも宿る。採用で最も重視するのは、意外にもBIMのスキルではないという。「私たちの採用条件のひとつは、そのスタッフが素直かどうか。『こうしてみたら?』と伝えたときに、まずやってみようとする素直で前向きなタイプを選びたい」と海老澤氏は言う。技術は後から伸ばせる、というわけだ。

月1回の検討会には、各設計室の実務者が集合。「課題意識が一番高い人たち」を選ぶ
記憶に残る設計事務所へ
BIMが描く、これからの景色
個人の選択から始まり、組織の文化にまでなったBIM。その先に何を見ているのか。今後の展望を尋ねると、海老澤氏の言葉は明快だった。「大阪ナンバーワンを目指していますが、規模で一番になりたいわけではありません。人の記憶に残る設計事務所を目指しています」と話す。
その実現を支える次の一手として、海老澤氏はBIMのさらなる活用を見据える。「これまではビジュアル面でArchicadの効果を強く感じてきました。今後はBIMデータを活用して、積算や工事費の概算まで早い段階で提案できるようになりたい。初期段階で建築の数量をつかみ、お客様に示せれば、もう一段上の設計事務所になれる。それが組織全体の野望ですね」。最初からBIMありきで生まれた事務所が、4人から50人へ。記憶に残る組織を目指す挑戦は、まだ途中にある。

4人から50人へ。「規模ではなく、記憶に残る設計事務所に」。ラフトの挑戦は続く
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